法人がゴールドを一定額以上購入すると、消費税に「3年縛り」と呼ばれる特例が関係することがあります。ただし、自社がどの課税ステータスにあるかを知っていれば、いずれの場合も対応は明確です。

1. 基本:買うときに払い、売るときに預かる
金地金(きんじがね)の売買は、消費税の世界では特別なものではありません。購入するときは価格に消費税が上乗せされ、売却するときは課税売上となって消費税を預かります。ゴールドは資産であると同時に、消費税から見れば普通の課税資産です。
長期保有を前提とする法人にとって意味を持つのは、この「買うときに払った消費税」が、いつ、どのように回収されるのかという時間の問題です。
2. なぜ金地金にだけ特別なルールがあるのか
金地金の売買は、消費税の世界では課税取引です。仕入れて売れば、その売上は課税売上になります。しかもゴールドは換金性が高く、売値と買値の差が小さいため、まとまった金額を短期間に何度も売買することができます。この2つが組み合わさると、利益をほとんど出さないまま、課税売上高だけを大きく積み上げることが可能になります。
消費税では、課税売上と非課税売上の両方がある事業者は、支払った消費税の全額を控除できるとは限らず、課税売上割合などに応じて控除できる額が決まります。住宅の賃貸収入は非課税売上ですから、賃貸用の住宅を取得しても、その取得にかかった消費税は本来ほとんど控除できません。
ここで金地金の売買が使われました。住宅を取得した課税期間に金地金の売買を繰り返して課税売上を膨らませ、課税売上割合を引き上げることで、住宅の取得にかかった消費税の控除額を大きくするという方法です。税務当局はこれを認めず、争いは裁判にも発展しました。
立法による手当ては二段階で行われています。令和2年度改正では、居住用賃貸建物の課税仕入れが仕入税額控除の対象から外されました。建物の側の入口が塞がれたことになります。そして令和6年度改正で、金地金等の仕入れそのものに着目した特例が設けられました。これが「200万円ルール」あるいは「3年縛り」と呼ばれているものです。
現在は、この方法は成り立ちません。居住用賃貸建物の取得にかかった消費税は、課税売上割合がいくらであっても控除の対象外とされているためです。
歴史として押さえておきたいのは、これらの規定が特定の手法を封じるために作られたものであり、ゴールドを保有すること自体を不利に扱うために作られたものではない、という点です。要件に保有の目的は含まれておらず、金額という外形的な基準のみで判定されます。
3. 「3年縛り」の正確な要件
国税庁タックスアンサーNo.6502は、この特例を次のように説明しています(消費税法12条の4)。
要件
- 課税事業者であること
- 簡易課税制度および2割特例の適用を受けない課税期間中に、金又は白金の地金等の仕入れ等を行ったこと
- その仕入れ等の金額の合計額(税抜き)が200万円以上であること
効果
- 仕入れ等を行った課税期間の翌課税期間から、仕入れ等を行った課税期間の初日以後3年を経過する日の属する課税期間まで、事業者免税点制度が適用されない
- 仕入れ等を行った課税期間の初日から、その初日以後3年を経過する日の属する課税期間の初日の前日まで、簡易課税制度選択届出書を提出することができず、すでに提出している場合は、その届出書の提出はなかったものとみなされる
なお「3年縛り」という呼び方は、金地金等を購入した課税期間を含めて3つの課税期間にわたり本則課税が続くことからきています。制限そのものを受けるのは、購入した課税期間の翌課税期間からの2つの課税期間です。たとえば3月決算の法人が2026年5月に購入した場合、制限を受けるのは2027年4月からの期と2028年4月からの期で、2029年4月からの期には戻ることができます。ただし、簡易課税制度を選ぶための届出書は2028年4月1日以後でなければ提出できないため、縛りが明けた2029年4月開始の課税期間から簡易課税の適用を受けたい場合には、2028年4月1日から2029年3月31日までの間に提出することになります。
この特例は、令和6年4月1日以後に行う金地金等の課税仕入れ等について適用されます。対象となる「金地金等」には、金又は白金の地金のほか、金貨・白金貨や一定の金製品・白金製品が含まれます。
ここで誤解が生じやすいのが、要件に取得の目的や用途が入っていないことです。資産保全のための長期保有であっても、要件を満たせば同じように適用されます。また、判定は1回の取引ごとではなく、その課税期間中の合計額で行われます。
なお、課税期間が1年に満たない場合(設立初年度や決算期を変更した期など)は、実際の仕入額をそのまま200万円と比べるのではなく、月数で年換算した金額で判定します。
4. 自社がどの類型かを知る
実務上の影響は、自社の課税ステータスによって変わります。
| 自社の課税ステータス | 3年縛りの影響 | 実務上の意味 |
|---|---|---|
| 本則課税を今後も継続する法人 | 実務上の影響はほとんどない | もともと事業者免税点制度や簡易課税制度に戻る予定がないため、制限されて失うものがない |
| 簡易課税制度・免税事業者のまま購入する法人 | 特例そのものが発動しない | 一方で仕入税額控除は取れないため、支払った消費税は取得のコストになる。長期保有の後に売却する場合は、そのときに受け取る消費税と対応する関係になる |
| 本則課税で購入し、その後に免税事業者または簡易課税制度へ移行する予定がある法人 | 翌課税期間から2つの課税期間、免税点制度・簡易課税制度に戻れない | 控除を受けることとの引き換えの関係にある |
この表の意味は、どの類型であっても、知って選んでいれば問題は生じないということです。実務で困るのは、購入後に簡易課税制度へ戻る前提で資金計画を立てていた場合のように、要件を知らないまま動いたときに限られます。購入の前に自社のステータスを確認しておけば足ります。
5. 記録の実務
金地金の取引には、他の商品にはない記録の要求があります。金又は白金の地金の課税仕入れについては、売り手の本人確認書類を保存していないと、その課税仕入れに係る仕入税額控除の適用を受けることができません(令和元年10月1日以後に行う課税仕入れから適用)。あわせて、適格請求書の保存も通常どおり必要です。
つまり金地金の仕入れでは、取引の相手方が誰であるかを記録として残していなければ、控除そのものが受けられません。金地金の取引は、記録が控除の要件になっている取引です。
6. 記録は、あとから作れない
消費税の取扱いも、取得価額の証明も、すべて取引の時点で残した記録に依存します。そして記録は、必要になったときに遡って作ることができません。
KINGOTは、法人が保有する金インゴット(金の延べ棒。「地金(じがね)」とも呼ばれます)を個体単位で扱う台帳サービスです。いつ、どの個体を、いくらで、誰との間で取得したのかが、シリアルナンバーとともに記録として残ります。本人確認書類や請求書の保存といった書類の実務と、台帳に残る取引の記録がひとつながりになっていることが、後から説明を求められたときの備えになります。
購入前のチェックリスト
- 自社の課税ステータス:本則課税か、簡易課税制度か、免税事業者かを確認したか
- 金額の見込み:その課税期間中の金地金等の仕入れ等の合計額(税抜き)が200万円以上になる見込みか
- 今後の予定:3年以内に簡易課税制度や事業者免税点制度に戻ることを前提とした計画がないか
- 顧問税理士への相談:購入の前に、自社の状況を前提とした確認を受けたか
- 取得目的の記録:稟議書・議事録に保有目的を記載したか
- 書類の保存:本人確認書類・適格請求書を保存する体制があるか
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本記事は、株式会社アウラムが公開情報をもとに調査し、当社の責任において作成・公開したものです。記載内容の全体について、公認会計士・税理士の水地一彰氏の監修を受けています。
監修:水地一彰(公認会計士・税理士)
本記事は、法令および通達に基づく一般的な課税関係の解釈を解説したものであり、特定の納税者の課税関係を保証するものではありません。課税関係は個別具体的な事実に基づいて判断されるため、実際の取扱いについては顧問税理士にご相談ください。記載内容は2026年8月時点の法令等に基づいています。