第一生命保険が、2026年度から運用にゴールドを組み入れ始めたと報じられました。利息を生まないため、生命保険会社の運用では中心に置かれてこなかった資産です。何が発表されたのか、なぜ珍しいのか、そして「ETFで始め、現物も検討」という持ち方の違いが何を意味するのかを整理します。

何が発表されたのか
第一生命保険は2026年10月22日、2026年度下期の資産運用計画の説明会で、ゴールドへの投資を始めたことを明らかにしました。報道によると、今年度から一般勘定(契約者への保険金や年金の支払いに備えて、会社が一体で運用する資産)で少額の組み入れに着手し、当初は海外市場に上場している金ETF(上場投資信託)を使います。今後3年程度で、運用資産の1%程度まで段階的に積み増す方針です。
狙いは、インフレなどのリスクに備えた分散投資です。日本経済新聞によると、同社の市村直人運用企画部長は、インフレ圧力や地政学リスクの高まりが組み入れの契機になったと説明しています。規模について、市村部長は次のように述べています。
ポートフォリオの中でそれほど大きな規模になることは想定していない。
ロイター(2026年10月22日)
生命保険会社がゴールドを持つのは、なぜ珍しいのか
生命保険会社(生保)は、数十年先に支払う保険金や年金のために資金を預かっています。そのため運用の中心は、負債の長さに合わせて利息を受け取れる国内の債券、とくに償還までの期間が長い国債です。大手各社が今回示した下期の計画でも、主な論点は金利上昇を受けた国債の入れ替えでした。第一生命も、年間で1兆円を上回る規模の入れ替えを見込むと報じられています。
この考え方からすると、利息を生まないゴールドは組み入れにくい資産です。報道でも、日本の生保は資産と負債を一体で管理する考え方(ALM)から、ゴールドへの投資に消極的だったとされています。本格的な購入は、国内の大手生保では珍しいと伝えられています。日本経済新聞は、利息や配当による収入が見込めないことから、第一生命も現時点では大きな規模で保有しない方針だと伝えています。
見方が変わりつつある背景には、物価の上昇基調と、各国の財政への懸念があります。特定の国の信用に依存しない資産として、ゴールドを分散先に加える機関投資家が増えていると報じられています。海外では2025年、中国の一部の保険会社にゴールドの購入が認められました。今回の発表も、その流れの中にあると私たちは理解しています。
海外ETF・国内ETF・現物:持ち方で何が違うのか
報道の中で私たちが注目したのは、ニッキンが報じた「現物を含めた保有形態の多様化も検討」という一文です。同じゴールドでも、持ち方によって、手元にある権利の中身が変わります。所有権の帰属、保管、換金のしやすさの3点で整理します。
海外の金ETF
投資家が持つのは、ファンドや信託の持分です。ゴールドそのものは、運用会社や受託者が保管機関に預けて管理します。取引所で日中に売買でき、換金はしやすい形です。現物での払い戻しは、大口の単位で指定参加者に限られるものや、制度自体を持たないものがあります。
国内の金ETF(1540など)
1540(純金上場信託・金の果実)は、国内の代表的な金ETFです。法的な形式は信託で、投資家が持つのは受益権(じゅえきけん)です。ゴールドは信託財産として受託者が管理し、換金は海外のETFと同じく取引所での売却で行えます。加えて、1kg単位で受益権を金地金に転換できる制度があります。転換には手数料と消費税相当額の負担があり、転換した年には譲渡損益も生じます。
現物(特定保管)
金インゴット(金の延べ棒。「地金(じがね)」とも呼ばれます)を自ら所有する形です。保管は自社で行うか、保管事業者に預けます。預ける場合も、1本ずつ特定して預ける特定保管であれば、所有権は持ち主に残ります。換金は、地金商などへの売却で行います。保管の手間と費用を負う代わりに、ファンドや信託の仕組みを介さず、個体そのものを持つことになります。
持ち方の違いは、会計・税務の扱いにも表れます。既存記事での整理では、ゴールドを裏付けとするETFの受益証券は、会計上はその他有価証券として時価で評価されます。これに対し、法人が保有する金地金は、法人税の取扱いでは原則として取得原価で計上し、期末に時価評価はしません。なお、時価が著しく下落した場合には、会計上の減損の検討が必要になることがあります。
どの形も、何かを差し出して何かを得る取引です。大切なのは、自分がいまどの取引の中にいるかを知ることだと考えています。
法人にとっての意味
今回の発表で目を引くのは、規模よりも位置づけです。運用資産の1%程度という水準は、ポートフォリオ全体から見れば小さな割合です。それでも、分散先の一つとして、ゴールドが運用計画の中に位置づけられたことになります。
法人や資産管理会社がゴールドを持つ場合には、会計・税務・保管の実務がついてきます。決算期末に時価評価が必要かどうかは「法人のゴールド保有と期末評価:決算のたびに時価評価は必要か」で、まとまった量を仕入れたときの消費税の扱いは「法人がゴールドを買うときの消費税:200万円ルールと「3年縛り」」で整理しています。ETFから現物へ移る場合の手続きと費用は、「1540(金の果実)の現物転換:ETFのゴールドを実物で受け取る手続き・費用・税金」をご覧ください。
どの持ち方を選ぶにしても、まず自社にとってどの論点が関わるのかを確かめておくと、判断の材料がそろいます。
まとめ
- 第一生命保険は2026年度から一般勘定でゴールドの組み入れを始めた。当初は海外上場の金ETFを使い、今後3年程度で運用資産の1%程度まで積み増す方針と報じられた。現物を含めた保有形態の多様化も検討していると伝えられている。
- 生保は負債の長さに合わせて国債中心に運用してきたため、利息を生まないゴールドの本格的な組み入れは国内では珍しいとされる。物価の上昇基調と財政への懸念が、見方を変えつつある。
- 同じゴールドでも、海外ETF・国内ETF・現物で、所有権の帰属、保管、換金のしやすさ、会計・税務上の扱いが異なる。どの形も、何かを差し出して何かを得る取引である。
※ 本記事は公表された報道に基づく事実の紹介と、ゴールドの保有形態の一般的な説明です。特定の金融商品の売買を勧めるものではありません。会計・税務の個別のご判断にあたっては、税理士等の専門家にご確認ください。
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