「実物資産をブロックチェーンで扱う」と聞くと、多くの人が最初に抱く疑問は同じです。そのデジタルの記録は、本当に現物とつながっているのか? 台帳に「ゴールド1kgを保有」と書いてあっても、そのゴールドが本当に存在し、本物で、あなたのもので、きちんと保管されている。それを誰がどう保証するのか。

この「オンチェーンの記録」と「オフチェーンの現実」を、どう信頼できる形でつなぐか。この問題は、技術の世界でオラクル問題と呼ばれます。ブロックチェーン上のプログラムは、それ自体では外の世界の状態を知ることができません。だから、現実とチェーンをつなぐ架け橋が必要になります。この架け橋が「オラクル」です。そして、架け橋の一つひとつに、固有の課題が生まれます。
実は、RWA(Real World Assets:現実資産)のトークン化におけるオラクル問題は、ひとつではありません。私たちは大きく8つの類型に整理しています。そして重要なのは、資産の種類によって、易しい問題と難しい問題がはっきり分かれることです。この記事では、その地図を示したうえで、ゴールドではどこが難所で、アウラムがそれをどう解こうとしているかをお話しします。
RWAの8つのオラクル問題
並べる順番にも意味があります。まず「モノ自体の真実(物理)」から確かめ、次に「権利と主体の真実(法)」、最後に「動かすときの真実(市場・運用)」へと進みます。
A. モノ自体の真実(物理)
- 真贋・同一性:その特定の現物が本物で、台帳に登録された個体と同じものか(すり替え・偽造の防止)。
- 実在・裏付け(Proof of Reserve):裏付けとなる資産が、本当に、必要な量だけ存在するか。保管者の自己申告に依存しがちで、リアルタイム性が弱点。
- 状態・状況:現物の物理的な変化(劣化・損傷・災害)を、すぐに、改ざんできない形で反映できるか。
- 保管・カストディ:信頼できる先に分別して保管され、同じ資産が二重に担保に使われて(二重担保)いないか。
B. 権利と主体の真実(法)
- 法的権利と執行:オンチェーンの保有者=現実の法的な権利者か。盗難時の食い違い、担保権の対抗要件、裁判所による執行まで。
- 主体・コンプライアンス:保有者が本人確認(KYC/AML)済みで、制裁対象などでないか。
C. 動かすときの真実(市場・運用)
- 価格・評価:外部の価格を正しく取り込めるか。流動性の低い資産(不動産など)は、そもそも市場価格が取りにくい。論点は、遅延・操作・単一障害点。
- イベント・ライフサイクル:配当・利息・賃料・満期・デフォルトといった出来事で、オンチェーンの決済を正しく起動できるか。
そして、すべての土台に共通する難所がひとつあります。物理と法の境界(ラストワンマイル)では、この架け橋を完全に無人化・トラストレス化することはできず、結局「信頼できる証明者」が必要になる、ということです。ここを正直に見据えることが、堅実な設計の出発点になります。
ゴールドは「易しいオラクル」と「難しいオラクル」が明確
RWAの中でも、ゴールド・貴金属を選ぶと、他の資産(特に不動産や貸付債権)の難所の多くを、構造的に避けられます。
- 状態(③)はほぼ不要:ゴールドは劣化しない。錆びず、腐らず、割れない。状態を見張るオラクルがほとんど要らない。
- 価格(⑦)の「評価」は易しい:ゴールドは世界中で深く取引され、価格が透明。不動産のように「評価が難しい」ことがありません。ただし、その価格を「オンチェーンに供給するオラクル」の側には、操作やエラー値・古い値(stale)が紛れ込むリスクが残ります(これは資産を問わず共通の課題)。この点は後述の「アウラムの解」で扱います。
- イベント(⑧)は軽い:ゴールドには配当も利息も満期もない。台帳で意味を持つ出来事は、売買・担保の設定・返済・担保解除・出庫くらい。しかもこれらは外部の誰かが報告する事象ではなく、当事者自身の行為(売主の指図・買主の承諾・返済)そのものなので、台帳がその場で記録できます。
その結果、ゴールドの難所は「真贋・同一性(①)・実在(②)・保管(④)・法的権利(⑤)」の4つに集中します。 アウラムは、まさにこの4点に解を当てています。
アウラムの解:4つの難所への答えと、価格オラクルの「番人」
真贋・同一性(①):本物で、その1本か
ここは2つに分けて考えます。「同一性」(登録した個体と同じか)と、「真贋」(そもそも本物のゴールド・正規品か)は、別の問題だからです。
- 同一性は、金インゴット1本ごとの記録を基本ラインにします。登録時には、インゴットの写真をAI画像認識(AI OCR)で自動的に読み取り、シリアル番号・重量・純度・鋳造元といった刻印情報を台帳に取り込みます。さらに監査の場面では、カメラで撮影した現物の刻印をAIで読み取り、台帳の記録と一致するかを照合します。これにより、「登録した個体」と「いま目の前の個体」のすり替えを見つけやすくします。より厳密さが必要な高額バーには、表面の微細な模様で個体を識別する技術(AI画像認識)を上乗せする方向で検討しています。
- 真贋は、技術で判定するのではなく、供給源で担保します。 初期は、鋳造元と流通が明確な新品のLBMA(ロンドン地金市場協会)認定バーに限定することで、真贋の起点をはっきりさせます(一点物のアートと違い、新品の金地金は鑑定家を要さずに真贋の起点を確立できる、というゴールドならではの易しさがあります)。将来、お客様が持ち込むゴールドを扱う場合は、検査のうえ再鋳造し、新たな個体として登録し直すことで、真贋の起点を作り直します。
ここは表現を正確にしておきます。AI画像認識(AI OCR)が照合するのは「刻印と記録の一致」であって、「AIが本物かどうか(真贋)を判定する」わけではありません。 また、表面の微細な模様による個体識別も、あくまで「同一性(すり替え防止)」を高める技術です。誠実な線引きを守ることが、かえって信頼につながると考えています。
実在(②):本当にそのゴールドがあるか
保管者の「あります」という自己申告だけに頼らず、中立の第三者と公証人の立会いによる実在監査(プルーフ・オブ・リザーブ)で、裏付けのゴールドが実在することを検証可能にします。台帳に載っている量と、金庫にある量が一致していること。それを外から確かめられる状態にするのが狙いです。加えて、監査の現場では、スマートフォン等のカメラで撮影した現物のインゴットをAI画像認識(AI OCR)で読み取り、刻印情報が台帳の記録と一致するかをその場で照合できる仕組みを実装しています。「台帳にある1本」と「いま金庫にある1本」を、継続的に突き合わせられる状態にします。
保管(④):きちんと分別され、二重に使われていないか
保管する人・売買の当事者・台帳を管理する人を分離すること(信頼の三層構造)で、「自分でも不正ができない」設計にします。分別保管と、同じゴールドが二重に担保に使われないことを、台帳の上で保てるようにします。
法的権利(⑤):オンチェーンの保有者=本当の権利者か
金庫から現物を動かさずに所有権を移すために、民法184条「指図による占有移転」を用い、第三者への対抗要件を備える設計にしています(この論点は法務省へ照会中です)。さらに、プラットフォーム外での勝手な移転を制限することで、「コードがすべて」の不可逆性と、現実の法的救済との食い違いをやわらげます。
主体・コンプライアンス(⑥):誰が取引しているか(別記事で詳述します)
残る主体・コンプライアンス(⑥)は、取引できるのを本人確認(個人はKYC/法人はKYB)済みの、許可されたアドレスに限る設計を基本に対応します。この「本人確認済みのアドレスに限る」という許可制は、資金洗浄の防止(AML)や制裁対象の排除といったコンプライアンスの土台にもなります。ただし、「一度おこなった本人確認を、安全に何度も使い回せるようにする」といった、より進んだ本人確認の仕組み(デジタルID等)は、外部の専門パートナーとの連携が鍵になります。この領域は現在、複数の連携先を模索している段階のため、本記事では概要にとどめ、別の記事で改めて詳しくお伝えする予定です。
価格(⑦):評価は易しい。だからこそ「番人」を置く(Oracle Guardian)
価格(⑦)は、ゴールドなら「評価」そのものは易しい問題です。しかし、その価格を台帳に取り込む「価格オラクル」には、意図的な操作(価格の歪め・フラッシュローン型の一時的な乱高下)や、エラー値・古い値(stale)の供給というリスクが残ります。とくに担保融資では、誤った価格が不当な清算や過大な貸付を招きかねません。そこでアウラムは、自律AIエージェント「Oracle Guardian Agent」を開発しました。複数の独立した価格ソースを常時突き合わせ、価格の乖離や更新の停滞(staleness)を検知すると、取引を自動で停止し、原因を分析したうえで、正常化を確認してから自律的に再開します。 「価格が易しいゴールドでも、安全な取引には価格オラクルの番人が要る」。これが、AUTONで取り組んだOracle Guardianの設計思想です。実際の動きは、KINGOTデモサイトの公開ページ「オラクル乖離モニタ」でご覧いただけます。
誠実な線引き:「完全に信頼不要」とは言いません
私たちは、「AIが真贋を判定する」「ブロックチェーンだから完全に信頼不要(トラストレス)で解決する」とは言いません。AIによる画像認識(AI OCR)は刻印と記録の照合であり、微細模様による個体識別は同一性の確認、実在監査はアテステーション(信頼できる証明者による裏書き)、Oracle Guardianは価格オラクルの異常検知と遮断です。現実とチェーンをつなぐ架け橋のラストワンマイルには、どうしても証明者が必要。この事実を隠さずに、「それでも、第三者が独立して検証できる状態をつくる」ことに価値がある、というのが私たちの立場です。
まとめ:「信頼できるオンチェーンのゴールド」を見分けるチェックリスト
オンチェーンでゴールドを扱うサービスを見るとき、次の観点で確かめてみてください。
- 真贋・同一性:どの1本かを記録し、すり替えを防ぐ仕組みがあるか。真贋の起点(供給源)は明確か。
- 実在:裏付けのゴールドの実在を、第三者が検証できるか(自己申告だけになっていないか)。
- 保管:保管・売買・台帳が分離され、二重担保が防がれているか。
- 法的権利:オンチェーンの記録が、現実の所有権とつながる法的な裏づけを持つか。
- 価格オラクル:価格フィードの操作・エラー・古い値を検知し、異常時に取引を止める仕組みがあるか。
ゴールドの強みは、価格・状態・イベントというオラクル問題が易しいこと。だからこそ、真贋・同一性・実在・保管・法的権利という「本当の難所」に、先に、正面から取り組めるのです。
アウラムは、この4つの難所のそれぞれに答えを用意し、「第三者が独立して検証できるゴールド」を目指しています。「AIが真贋を判定する」「ブロックチェーンだから完全に信頼不要(トラストレス)」といった過剰な約束はしません。難所を難所として正直に見据え、そこに一つずつ、検証可能なかたちで解を積み上げていく。それが、私たちの考える「信頼できるオンチェーンのゴールド」のかたちです。
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