実物資産には、大きく分けて不動産と動産があります。不動産には「登記」があり、所有権が明確だから金融機関は安心して担保に取れます。ところが金インゴットのような動産には、所有権を公に示す包括的な登記がなく、その経済的な価値を「売る(手放す)」以外の方法で活かしにくいままでした。アウラムは、その空白をブロックチェーン上の「動産デジタル台帳」で埋めます。台帳とは何か、なぜ役立つのかを解説します。

アウラムが開発しているのは、動産の所有権や担保を、ブロックチェーン上に改ざん困難な形で記録する「動産デジタル台帳」です。いわば、不動産の登記が果たしてきた役割(所有権を明確にし、担保に取れるようにする)を、登記のない動産に、台帳というかたちで与える試みです。
台帳は「ただの記録」ではなく「機能」です
「ブロックチェーンに記録する」と聞くと、単なる記録簿や証明書のようなものを想像するかもしれません。しかし、動産デジタル台帳の本質は、記録そのものより、その記録があることで何ができるようになるかにあります。
台帳があることで、次のことが可能になります。
- 現物を金庫から動かさずに、所有権を移せる(売買)。
- 現物を売らずに、担保として資金化できる(担保)。
- その所有や担保の状態を、必要な相手が検証できる(検証)。
つまり台帳は、「持っているだけ」だった動産を、売らずに活かせる資産に変えるための仕組みです。単なる説明資料ではなく、売買や担保といった機能の中心にあります。ここが、私たちが最も大切にしている考え方です。
3つの柱
① 現物を金庫から動かさない
金インゴットは金庫に置いたまま、所有権だけを移します。これは、民法184条の「指図による占有移転」という古くからある考え方を使っています。物理的に運ばなくても、法的に所有権を移せます。だから、輸送のコストも紛失のリスクも避けられます。(詳しくは「金庫から動かさずにゴールドを売買する——民法184条「指図による占有移転」入門」をご覧ください。)
② 改ざんが難しく、必要な相手が検証できる(プライバシーは守りながら)
記録はブロックチェーン上に残り、後からこっそり書き換えることが困難です。台帳が正しく保たれていること自体は、誰でも確かめられます。
一方で、「検証できる」ことと「誰もがすべてを見られる」ことは違います。「誰が、どのインゴットを、どんな担保の状態で持っているか」といった個別の情報は、プライバシーとして守られるべきものです。そこで動産デジタル台帳は、こうした情報を、必要な相手にだけ、必要な範囲で開示・検証できるように設計します。たとえば、融資を審査している金融機関のような、特別な役割を持つ第三者が、審査に必要な事実(所有権や担保の状態)だけを確かめられる。保有者の情報が、誰にでも丸見えになることはありません。「信じてください」ではなく「必要な相手が、必要な範囲で確かめられます」を目指す設計です。
③ 中立であること
アウラムは、自らはゴールドを売買せず、在庫も持ちません。 台帳という共通の基盤を、特定の売り手・買い手に偏らない中立なインフラとして育てることを目指しています。中立だからこそ、多くの当事者が安心して乗ることができます。
「台帳の記録」と「金庫の現物」を、どう結ぶか
ひとつ、正直にお伝えしておきたい論点があります。台帳が本当の意味を持つためには、「台帳に書かれた記録」と「金庫にある現物」が、きちんと結びついている必要があります。台帳に「ゴールド1kg」と書いてあっても、そのゴールドが本当に存在し、本物で、すり替えられていない。それを確かめられなければ、記録だけが宙に浮いてしまいます。
この「現実とデジタルをつなぐ」ところには、固有の難しさ(「オラクル問題」と呼ばれます)があります。ゴールドでは、どこが易しく、どこが難しく、アウラムがそれをどう解こうとしているかは、別の記事で改めて詳しくお話しする予定です。
実際に動いています
これは机上の構想ではありません。アウラムは、2件の技術実証を公開しています。
- 売買の実証:金インゴットを金庫から動かさずに、特定の1本の所有権を移す取引を、ブロックチェーン上で記録(プレスリリース(2026年6月29日))。
- 担保による資金化の実証:金インゴットを担保に、金庫から動かさないまま、オンチェーンで貸付・返済・担保の解除までを一気通貫で実施(プレスリリース(2026年7月6日))。
さらに、担保価値の前提となるゴールド価格の異常を自律的に検知して取引を止めるAIエージェント(Oracle Guardian)も開発しています。
※ これらはテスト環境での技術・法的構成の検証(PoC)です。お客様が実際に利用できるサービスの提供は2027年以降を想定し、法的な裏づけについては複数の弁護士の助言を確認しながら、慎重に準備を進めています(一部の論点は法務省へ照会中です)。
まとめ
- 動産には、不動産のような包括的な登記がないため、所有権が示しにくく、その経済的な価値を活かしにくかった
- 動産デジタル台帳は、その空白を埋め、現物を動かさずに「売買・担保・検証」を可能にする機能そのもの
- 柱は、①金庫から動かさない(民法184条)②改ざん困難で、必要な相手が検証できる(プライバシーは守る)③中立なインフラ
- 台帳が意味を持つ鍵は「記録と現物の結合」。ここは別記事(オラクル問題)で改めて深掘りする予定
※ 本記事は一般的な解説および当社の技術実証の事実報告であり、個別の契約・事案の法的評価は約款や事実関係によって異なります。具体的なご判断にあたっては顧問弁護士等の専門家にご確認ください。
次に読むべき記事
金庫から動かさずに所有権を移す仕組みの法理と技術実証は、「金庫から動かさずにゴールドを売買する——民法184条「指図による占有移転」入門」で解説しています。
「誰も一人では不正できない」保管の仕組みは、「なぜ「独立した保管機関」が必要なのか:信頼の三層構造」をご覧ください。
担保として「売らずに資金化する」具体像は、「金インゴットを担保に資金調達する:動産担保融資の基礎」で解説しています。
実物資産をブロックチェーンで扱う際の難所を8類型で俯瞰したい方は、「RWAの「8つのオラクル問題」:ゴールドはどこが難しく、どう解くのか」をあわせてお読みください。
政府の方針に「オンチェーン金融」が入った意味と、モノの側に何が足りないのかは、「骨太の方針2026に「オンチェーン金融」が入りました:お金の側と、モノの側」で整理しています。
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